浅草文化観光センター,Asakusa-Sightseeing-Center
昨年秋の記事で取り上げた隈研吾氏設計の「浅草文化観光センター」建替プロジェクト。すでに工事用ブルーシートも取り払われ、外観は9割がた完成しています。オープンを来月に控え、内装工事が急ピッチで進んでいるようです。

久々に雷門前に立ち、ベールを脱いだ、超個性的な外観を見上げた第一印象は、「おお、パースのまんまだ。」です。そして予想していた通り、上下の遠近感が反映されにくいイメージパースのような不安定感もなく、危惧されていたような「街並みから浮いた感じ」もない、と感じました。

取材日は土曜でしたので、雷門前は観光客でゴッタ返していましたが、この特異な外観の建築を見上げる人は(私の印象では)少なく、ほとんどの観光客は今まで通り、雷門を背にした記念撮影に夢中でした。

建物好きとしては、隈研吾氏のせっかくの意欲作を見上げる人が少ないのはさびしい気もしましたが、このような斬新なデザインにして、「負ける建築」を実現してしまう隈氏の絶妙のセンスと力量を再認識しました。



 浅草文化観光センターパース1
計画決定時から、台東区のサイトに載されていた完成イメージパースです。
実物に比べ、やや安定感に欠ける印象を受けます。これは、上にも書いた通り、パースに上下の遠近感が反映されていないためと思っていたのですが、帰宅後、この記事を書こうと写真とパースとを見比べてみると・・・、遠近感の問題だけでなく、デザインも微妙に変わっていることに気づきました。 

写真とパースの絵を見比べてもらうとわかると思いますが、 パースに比べて、実物の方は、最上層部と、上から3つ目(5階?)のフロアの形状がかなりフラットになり、天井高も低くなっているようです。

 

浅草文化観光センター,Asakusa-Sightseeing-Center
雷門前交差点、西側から臨んだスカイツリーと込みのショット。
正面から見ると「木の質感」が際立っていますが、この角度からだと、ガラスカーテンウォールの質感が強調されて、ややメタリックな印象を受けます。

そして、この写真を下のパースと見比べてみると、さらにはっきりとデザインが変更されたことがわかります。


 浅草文化観光センターパース2
上の写真とほぼ同じビューポイントのパースです。遠近感の欠如の他、雷門まで一枚に収めるために無理やり超広角に画角補正していることによる歪みが激しく、現実の構図とはかけ離れているのですが、それらをさっぴいて見ても、パースの段階では随分と安定感に欠ける形状だったことがわかります。

一番の違いはやはり、最上部と5層目のフロアのボリューム。その他、フロア同士の乗っかり方、結合感が大分違っています。

どういう経緯で、このようなデザインの変更が行われたのか分かりませんが、これはどう見比べても、変更後のデザインの方がいいですね。パースのままのデザインだと、一歩間違えれば子供の積み木細工というか、震度6くらいの地震で、各フロアがガラガラと両サイドに滑り落ちそうな(もちろん構造計算上そんなことはあり得ませんがw)、なんかこう、実に不安定でガチャガチャな印象を受けます。



浅草文化観光センター,Asakusa-Sightseeing-Center
3枚目のスカイツリーと込みの写真は、広角レンズの歪み効果でやや雷門側に前のめりになってるように見えますが、実際にそんなことはありません。真下から見上げるとさらに安定感も増し、オシャレです。浅草というより、むしろ銀座や表参道のブランドビル群に加わった方が違和感なく溶け込めそうですらあります。

 
 

浅草文化観光センター,Asakusa-Sightseeing-Center
小さくなった上層フロア。一番上の屋根板の取り付けがまだ完了していないように見えますが、パースのようにグッと前にせり出した庇の取り付けはもうやめたのでしょうか?個人的には、もうこの形でいいと思いますね。


 
一枚目の雷門前からのキマリの構図を除くと、建物の形状、街並みへの溶け込み具合が一番バランスよく見えるベストアングル。しかし、微妙にスカイツリーが入れ込めてないので、一般メディアではあまり使われないビューポイントかな?

こうしてみると、今まで気にも止めなかったのですが、写真右側のマンション群の統一された高さと、落ち着いた色合いが、景観上とても重要な意味を持っていることに気付かされます。この風景の中で最も「勝ってしまっている建築」は、隈作品でも、高層マンションでもなく、谷間の、白い外壁に赤い看板を載せた、飲食店ビルですね。(左端に見える、川向こうの黄金の高層ビルと脇の「オブジェ」は相変わらず別次元の勝ちっぷりですがw)


浅草文化観光センター,Aasakusa-Sightseeing-center
仲見世の真ん中からみた、文化観光センター。コンペに参加した他作品のパースを見ると、この位置からの見え方を意識した作品が目立ちましたが、こうして見ると、仲見世のキッチュで雑然とした光景の中にあって、完全に埋もれてしまってます。まさに「負ける建築」、というか、「負けちゃってる」といった方がいいかw。

まあ、仲見世アーケードの佇まいの是非は置いとくとしても、当建築を視界から遮る「スーパドライ」な看板、なんとかなりませんかね?せっかく外国人観光客に定番の仲見世の風景の中に、意欲的な和モダンなアクセントが新たに加わろうとしているのに、これでは興ざめです。


浅草などの歴史や観光資産を中心とした街では、目新しいデザインの建築物や高層建築物の計画が持ち上がると、必ずと言っていいほど「景観破壊」が議論されますが、個人的には、大きな商用看板の方がよっぽど歴史的景観を破壊していると感じます。
 


浅草文化観光センター,Asakusa-Sightseeing-Center

吾妻橋(東)側からみた様子。こちらからみると、やや浮いてる感は否めませんが、それはこの建築が「勝っている」からというよりも、手前の商店街の雑居ビル群の佇まいが、「ガチャガチャ」だからだと思います。

何をもって「浅草らしさ」(またはその街らしさ)と定義するのかは人それぞれで、難しい問題ですが、個人的には、手前の雑居ビル群よりも、隈建築の方が「江戸の遺伝子」を受け継いでいるのではないか、と思います。

もちろん、手前の商店街を歩くと、素敵なお店がたくさんあり、それぞれの間口の下町情緒溢れる意匠が観光客の目を楽しませていることは言うまでもありません。 しかし、歩道上にアーケードをかけてしまって、それより上の部分の外観が店構えと分断してしまった、単なる雑居ビル街の風景を俯瞰した時、それはお世辞にも美しい街並みとは言えず、少なくとも「江戸情緒」とはかけ離れたものになってしまっているのではないでしょうか?

浅草は「江戸情緒」じゃなくて「下町情緒」の街だ!と反論させるかもしれませんが、それをもって現状の雑然とした街並みを守れというのも、近視眼的な現状追認、変化に対する感情的な拒否感、等々を肯定するための詭弁だと思います。

 

浅草文化観光センター,Asakusa-Sightseeing-Center
では、どうすればいいのか?前回この話題を取り上げた時に、せっかくの意欲的な建築が街から「浮いた感じ」にならないためは、「雷門通り沿いに、新観光センターと同じ方向性の、木の質感を生かしたポストモダン建築をどんどん増やして、日本一の『和モダンストリート』を目指して再開発してほしい」と書きました。

ところで、上の写真の奥に見えるタワークレーンの立った建設中のビル、最初はありふれたマンションかと思っていましたが、調べてみると、以下のようなビルで用途はホテルのようです。(ヒューリック雷門ビル)。

0513-m02
シックな色合いとデザイン、どこか「浅草モダン」を連想させる外観で、悪くはないと思うのですが、このロケーションに、文化観光センターのような和のテイストをポストモダンにアレンジした隈風作品が建てば、雷門通りの街並みに与えるインパクトは段違いだったのになあ、と思います。(例えばこんな建物→コンペで隈氏に負けた作品)。

当面次の期待は、交差点を挟んで文化観光センターの西向いの三井住友銀行浅草支店のある場所ですかね。前回も書きましたが、この場所には文化観光センターと全く同じデザインのビル(商用テナントビルとしても使える筈)をもう一つ建てて、「浅草ゲートタワー」にするのが景観的に一番バランスがとれるんじゃないかと勝手に考えてます。

そして、雷門通りが連鎖的に和モダン(和ポストモダン)ストリートとなって行き、浅草が「外国人観光客が一番行ってみたい」と「日本人が、外国人観光客に一番見てもらいたい」を両立した街として、発展してくれることをひそかに期待しています。

(追記:この記事をアップした時点で、最後の「ヒューリック雷門ビル」に関して、私の全くの勘違いで浅草橋駅前の小学校跡再開発の写真と解説を載せてしまいました。コメント欄でご指摘頂き、慌てて修正しました。ありがとうございます。)


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