「外国人1万人、航空券無料で日本に招待」
 読売新聞 2011年10月10日(月)17時45分配信
観光庁は、東日本大震災後に激減している外国人観光客の回復を狙い、2012年度に全世界から、旅費無料で1万人の一般観光客を日本に招待する方針を固めた。
こうして来日する旅行者には、日本滞在中にインターネットで世界へ情報発信してもらう方針だ。日本国内の滞在が安全・安心であることを口コミで世界的に広げる効果を見込んでいる。旅行者にはこのほか、震災後の日本旅行についてアンケート調査をしたり、新たな日本旅行のモデルとなるような旅行プランを提案してもらったりする。事業費として、観光庁は12年度予算の概算要求に11億円を盛り込んだ。
募集は主にインターネットを通じて行い、応募者の旅行計画などが審査に合格すれば、日本への往復航空券を提供する。

◇震災から半年、日本の観光需要は根強いものがある

このニュースを受け、2chなどでは「またバラマキが始まった」だとか「どうせ民主党政権による中韓への心付けだろ」とか「そんなカネがあったら福島の子供たちに・・うんぬんかんぬん・・」といったお約束の政府叩きが目立つが、私は、役所の発想にしては、なかなかいい着眼点なんじゃないかと考えている。 

もともと、日本は観光旅行先として非常に人気があるものの、「行くにはとても高くつく国」という印象がボトルネックとなっていた。そこに、ここ1,2年の急激な円高が追い打ちをかけ、震災と原発事故でとどめを刺されたかのように見えた。 

それでも、震災から半年がすぎ、震災直後には全く姿を消していた外国人観光客の姿がかなり見られるようになってきた。統計的にはまだ震災前の半分ほどのようだが、ポジティブに考えるなら、超円高を含めこれだけの悪条件が、まだ何ひとつとして「終結」していない状況下で、半分も戻ってっきてくれるというのは、日本の観光需要がいかに根強いかの証左ともいえる。




◇日本は今、再び観光大国を目指せるか否かの分岐点に

反面、半年で半分までの回復は、異様にディスカウントされた航空料金、宿泊料金などを狙ったバーゲンハンティンング的な旅行者に負う割合も大きいという(それ自体は別に悪いことではない思うが)。これは言ってみれば、市場メカニズムによる自律回復、リバウンドによる半値戻しの水準であり、ここから震災前の水準までの「全値戻し」を達成することは容易ではないと思う。 

だからこそ、「半値水準」までリバウンドしたこの時期に、再び下降トレンドとならないよう、迅速な対策をうつことが重要なのである。そのためには、「東京や西日本などを観光する分には放射能リスクは全くない」ということを、日本に興味をもつ外国人に強く知らしめることが不可欠であることは言うまでもない。



◇政府が「安全」をPRしすぎても逆効果

しかし、「日本は大丈夫です!安全です!だから来てください」と日本の「当局」がいくらPRしてもあまり効果は期待できない。いや、下手すると逆効果になることだってある。「あんなに日本政府が必死になって安全を叫ぶとこみるとやっぱりみんな危険と思ってるんだな」と、かえって警戒感を持たれてしまうことだってあると思う。
 
我々日本人だって、大きな災害や紛争などがあって間もないのに、政府が「大丈夫です!遊びに来てください!」とひたすら叫ぶだけの国に行きたいと思うだろうか。 

「安全」であることを外国の人に知ってもらいたいならば、そのことを、日本を訪れた観光客自身に「口コミ」で伝えてもらうこと以上に有効な手段はないだろう。そのことに気づき、予算を集中投資しようという観光庁の目の付け処はすばらしいと思う。観光客を以前のように呼び戻したいなら、逡巡している外国人に、まず何を置いても日本に来てもらうことだ。そのためにこの「無料招待」は絶好のキッカケを与えることになる。



◇日本は「革命」じゃなく「ソーシャル復興」で

「無料枠」でやってきた外国人には、滞在中に「ネットで情報を発信してもらう」とのことだが、皆さんご存知の通り、今やソーシャルメディアの爆発的普及により、ネット上の「口コミ」は、2、3年前とはケタ違いの伝播力、影響力を持つに至り、今でも加速を続けている。世界が「ソーシャル革命」の只中にあるというこのタイミングを「日本の復興」に積極的に利用しない手はない。 

ただ、問題はその「やりよう」である。記事には「ネットによる情報発信」「口コミ」としか書いておらず、今日の時点で観光庁のサイトにまだこの計画のリリースは見当たらない(読売のスクープなのかな?)ので、具体的にどのような戦略を考えているのかはわからない。 

「滞在中にネットで発信」ということにも、どの程度意味があるかも疑問である。著名人が不特定多数のフォロワーにむけて動画ストリームなども駆使して「今日本にいるけど安全だよー」とやるならリアルタイム性は大きな意味を持つかもしれないが、一般旅行客が「ソーシャル」に口コミを広げていくというミッションの中に占める、「滞在中」であることのウェイトがそれほど大きいとも思えない。(もちろん、「コイツ本当に言ったとおりネットで口コミ発信してるだろうな」と観光庁の担当者がリアルで監視するなら滞在中じゃないとだめだろうがw)



◇「ソーシャルグラフ」を審査基準に

重要なのは、滞在中であるか否か、また、帰国後にどれだけ継続的に「日本の安全情報」を発信し続けているかということよりも、どれだけタイミングよく、伝播力の強い口コミを発信できる人を呼べるか?ではないだろうか。
 
それを見極めるのは簡単ではないだろうが、審査基準は「旅行計画」とかよりも、ソーシャルメディア上に広範囲かつ伝播力の強い「ソーシャルグラフ」を持ち、日頃から観光で訪れた場所の情報を「身近な話題」として周囲に伝えるスキルに長けた人とするべきだろう。

そういうスキルとネットワークを持つ人と持たない人とでは、「口コミ」の効果に格段の違いが出てくると思う。(他にも、訪れた地で築いた人間関係を自分のソーシャルグラフに組みいれて交流を続けていたりしている人なども、有望かもしれない。)



◇税金をムダにしないために

この財源難の折に11億円の税金投入を高いとみるか安いとみるかは判断が別れるところだが、私は投入してみる価値はあると思う。 

このプロジェクトでタダで日本にやってきた日本びいきの外国人たちが、ソーシャルメディアを駆使して日本政府からもらった旅費の何倍、何十倍ものPR効果を生み出してくれることは十分に可能なことだと思う。繰り返しになるが、そのためにはなるべく効果の高い人を選ぶべきだ。なにしろ私達の税金を使ってタダで旅行してもらうのだから。 

ただ、PR効果の高い人といっても、何も有名人やその国のPR会社に勤める人を呼べと言っているのではない。(プロのPRマンなんかに口コミさせたらSNSのネットワーク上では却って押し付けがましく思われて敬遠されてしまうだろう。) 

「日本は安全で是非訪れる価値がある」という実感の篭ったプライベートな情報を、なるべく自然体で知人たちに伝え、拡散させることのできる「ソーシャルグラフ」を持つ人たちを厳選すること、それが今のタイミングで最も効率的に日本の安全をPRし、私達の税金をムダにしない近道なのだと思う。


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